2018年11月6日、Ron Stull著 - 7分の閲読
「Pushing the Limits(限界に挑む)」シリーズのパート2へようこそ。このシリーズでは、CUIでよく聞かれる「特定の仕様範囲外で電源を動作させるとどうなりますか?」と言う質問に対して深く掘り下げていきます。パート1では、入力電圧の仕様について議論しました。今回このパート2では、出力電流および、出力電流仕様の超過時に発生し得る問題を見ていきます。
CUIのPushing the Limits(限界に挑む)シリーズのパート1、入力電圧について読む
CUIのPushing the Limits(限界に挑む)シリーズのパート3、動作温度について読む
定格出力電流は、電源を選択する際の最も重要な仕様の1つです。これは本体のサイズとコストを決定する際に大きな役割を果たし、設計者は、この仕様によって要件を満たすのに十分な電流を持った電源を選択することができます。このようなケースでは、設計者は短時間のピーク電流ならば対応可能だと仮定して、コストとサイズを節約するために「通常の」動作電流を対処する電源を選びがちです。こうした考え方は、最小電流制限に対しても言えます。しかしながら、最大または最小電流仕様を超過することは、性能の劣化、保護シャットダウン、またはコンポーネントの損傷など数々の問題を誘発する可能性があります。
効率、調整、および電磁波放射(EMI)は、その定格出力電流範囲外で電源を動作する場合に顕著に影響を受ける最も重要な仕様です。
出力電流が上昇するにつれ、出力パワーも上昇します。負荷全域で効率が固定されている場合は、さらなる電流が加わることで、電源内の電力損失が直線的に増加してしまいます。この追加された電力損失はコンポーネントの温度上昇を引き起こし、熱による損傷につながる可能性があります。実際は、効率が一定に保たれることはほとんどなく、下のグラフに示されているように、電源では最大負荷に至る前にピーク効率に達するのが一般的で、定格電流を超えると効率は低下します。これによって負荷増加に関わる電力損失は指数関数的に増加し、その効率が一定であった場合よりもはるかに急速な最高温度の低下をもたらします。熱に関連する懸念事項の他にも、この効率の急激な低下は電源やシステムの効率調整の失敗につながる可能性があります。さらに、このグラフによると、200Wの定格不可を20%超えてこの電源を動作すると、効率はこの91%仕様に対して1%ポイント下がることが示されています。これにより、消費電力は30%増加します。
定格外での操作の場合、負荷調整は頭を悩ますもう1つの仕様です。この負荷調整によって、ユーザーは負荷ゼロから負荷完全状態の間を変化したときの、出力電圧変動として予想できる最大量を知ることができます。以下のグラフは、200WのAC-DC電源の負荷調整の例を示しています。この電源は、増加した電流によって急降下する出力電圧を有しています。ただし、一部の電源では負荷と共に出力電圧の増加が見られるので、これは常にそうであるというわけではありません。いずれにしても、指定された電流範囲外での動作は、出力電圧がその負荷調整の仕様外へと移動してしまうため、この範囲外の電圧を受け付けないアプリケーションでは問題が発生する可能性があります。
入力範囲が狭いアプリケーションでは、しばしば外付けの電圧検出接続のメリットを利用して、電源の出力ではなく負荷で出力電圧を調整します。外部センシングによって、電源供給と負荷の間に通常発生する出力電圧におけるドロップは、電源の出力電圧の増加によって補正されます。その結果、電圧上昇による電源への損傷を防ぐために補償可能な最大電圧の仕様が使用されることがよくあります。
最低電流定格を備えた電源では、制限値以下での操作でも、本体はその調整仕様外で操作してしまう原因になります。このような電源は通常、小型で安価、かつ軽負荷で発生する問題には対処するよう設計されていない、シンプルな調整スキームを備えたユニットです。最低電流は複数出力を持つ電源でも仕様付けすることが可能で、これはその仕様制限内で2次的な出力を調整する必要があります。
出力電流に関連した最後の、わかりにくい問題がEMIの増加です。スイッチング電源は電気的ノイズがあるデバイスで、フィルタ―コンポーネント用の多くのボード用スペースがあり、調整要件に適合するために役立ちます。この要件は、通常は必要なテストをパスするのに十分な程度です。たとえ指定された負荷範囲内での操作であっても、ある特定負荷で使用する場合は問題が発生します。一般的には、EMIは負荷と共に増加すると想定され、最大負荷を超えて動作を行なうと、EMIは損失閾値以上へと押し上げられます。さらにこれは高負荷でフィルターの効率が落ちた場合は調合されます。これらのコンポーネントで増加した電流や温度は、これらの値を変更しフィルターの応答を変化させることも可能です。
上記で説明された仕様関連のすべての問題は、ユーザーが最大出力電流以上で電源を操作できると仮定しています。しかし、ほとんどの電源は何らかの過電流保護を備えており、負荷がある電源閾値を超えるのを防止するようになっています。
一部の電源は、定格出力を超えてすぐのところに、過電流保護が起動するように閾値が厳格に設定されています。電源を公称電流に対して対応させ、ピーク電流ニーズが電流定格を超えるようにしようとするユーザーは、この保護機能のために出力がシャットダウンする場合もあります。
その他の保護スキームはより広域の閾値を持っており、これにより負荷が最大定格出力を大幅に超過することを可能にします。個々の電源間の閾値の違いによって、一部の電源では保護が有効化され、その他ではそうならない等の問題が発生する可能性もあります。出力がシャットダウンされなければ、電源は最大電流以上で動作してしまい、仕様関連の問題や損傷を引き起こしてしまいます。
さらに、より複雑な電源では、最少定格電流を満たさなかった場合の保護も提供します。一方、その他の電源ではこのような条件下では動作を完全に無効化してしまいます。軽負荷で確実に自己調整できない電源は、出力での過剰電圧をもたらし、保護機能をトリガーする可能性があります。
以前の問題では必ずしも電源部品に対する故障や損傷が生じるわけではありませんが、多くの部品では負荷電流が増加すると、余分な電圧や電流ストレスが発生し、さらに大きな危険にさらされます。
電流が増加すると、伝動装置電体のコンポーネント電流も同様に増加します。MOSFET、ダイオード、抵抗器、そして銅トレースといったようなコンポーネントでさえも、増加した電流が原因となり消費電力および熱の増加が見られます。ダイオードや固定電圧を持つその他のコンポーネントは、消費電力が線形増加するのに対し、MOSFETや抵抗素子を持つコンポーネントは負荷の増加に対する電力損失が急激に上昇します。どちらのケースでも、これは温度上昇を増加させ、信頼性を低減し、損傷のリスクを増大します。
チョークや変圧器のような磁気コンポーネントは、前述のコンポーネントのように導通損失が増加したにもかかわらず、コア損失が増加して飽和に至り、さらなる損失と発熱を発生させることもあります。また、飽和した磁気によって、電源の停止や、MOSFETやダイオードなどの他のコンポーネントの電流増加を発生することもあります。例えば、バック・コンバータでは、リップル電流はインダクタンスに直接関係しています。MOSFETでインダクタンスのピーク電流が低下し始めると、結果としてダイオードは増加します。
磁気コンポーネントのディスクリート以外に、変圧器の漏れインダクタンスのような寄生インダクタンスもあります。これらの寄生成分は、スイッチが状態を変えたときに電圧スパイクを引き起こし、このスパイクの大きさは負荷とともに増加します。トランス漏れが起こった場合、電圧スパイクがMOSFET全域に印加され、これが大きすぎると故障の原因となることもあります。電圧と電流を検出するような他のコンポーネントは、これらの電圧スパイクを感知し、コントローラが誤った電圧と電流の情報を受け取り、パフォーマンスや故障を引き起こします。
電源を選択する場合、パワー、サイズ、コストは重要な要素です。残念なことに、1つを改善するとしばしば他に影響を与えることになり、通常電力が多くなるにつれて、大型で高価な電源が必要になることを意味します。それでも、ユーザーはしばしば3つの要因すべてを最大限に酷使し、潜在的な問題に直面することになります。出力電流は、電源におけるすべてのコンポーネントに関して影響を与えるような分野です。いくつかはその影響が明らかですが、容易に見過ごされるものもあり、即時または長期の問題を引き起こす原因となります。電源装置の出力電流定格外の操作を行う前に、電源装置の製造元とよく相談してそのリスクを理解するか、あるいは代替ソリューションを検討してください。
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