2019年1月29日、Ron Stull著 - 5分の閲読
「Pushing the Limits(限界に挑む)」シリーズのパート3へようこそ。このシリーズでは、CUIでよく聞かれる「特定の仕様範囲外で電源を動作させるとどうなりますか?」と言う質問に対して深く掘り下げていきます。パート1では、入力電圧の仕様について、パート2では、出力電流制限について説明していきます。さて、パート3では、電源の動作温度とその規定範囲を超えた際に何が起こり得るかについて見ていきたいと思います。
CUIのPushing the Limits(限界に挑む)シリーズのパート1、入力電圧について読む
Pushing the Limits(限界に挑む)シリーズのパート2、出力電流について読む
現代の最新テクノロジーを以てしても、常に天気を予測することはできません。制御されていない環境の電気システムでは、温度が規定された動作範囲外になるとこれが非常に大きな問題になる可能性があります。最低温度または最高温度を超過することは、性能の劣化、平均寿命の低下、コンポーネントの完全な損傷など、電源にまつわる多数の問題を引き起こす可能性があります。
性能の問題は、電源が継続して動作しているものの、その性能が仕様外となっている場合に発生しています。ほとんどのコンポーネントの電気的特性は、温度条件の影響を受けているため、その性能が期待されている環境でコンポーネントが妥当な範囲で動作するよう温度制限が規定されています。この規定範囲外では、コンポーネントの動作は保証されず、効率、リップル、規制、EMIにまで至るような性能仕様の劣化が問題となってきます。
この電源のコンポーネントは、プラスの温度係数(PTC)を有するコンポーネントと、マイナスの温度係数(NTC)を有するコンポーネントの2つのカテゴリーに分類できます。PTCはコンポーネントに寄与する損失の値がその温度と同じ方向に変化し、NTCはその逆の動向となります。
温度とともにその効率的なオン状態抵抗が増加する、MOSFETのようなPTCデバイスである伝動装置内のコンポーネントでは(下のグラフ参照)、温度上昇とともに損失の増大が見られます。
順電圧が温度上昇とともに急激に下がる、ブリッジ整流器内のダイオードのようなNTCデバイスでは(下のグラフ参照)、損失の減少が見られます。NTCデバイスまたはPTCデバイスのいずれかを変化させる負荷条件や温度条件は他を圧することから、これによって電源全体の効率を一方向または逆の方向に変えてしまうことにつながります。
多くの電流を流さないその他のコンポーネントは、電力損失の変化には関与しませんが、これらのコンポーネントの値は電源のさまざまな側面のセンシングに使用されることが多々あります。電源の出力電圧を設定するために、一般的に2つの抵抗器から成るシンプルな電圧ドライバーが使用され、これらの抵抗器の値の変化が出力電圧を変化させます。その他のセンシングコンポーネントは、内蔵保護機能によって問題を発生することがあります。伝動装置内では、電流の感知に抵抗器が一般的に使用されており、この抵抗器全体の電圧が過電流が発生した際の電源のシャットダウンに使用されます。この抵抗器の値の変化が、保護機能のトリガーのタイミングを早めてしまったり、あるいは遅くすることもあります。
最低温度以下での動作も、最大温度以上での動作と同様の多くの問題を発生します。低温で発生する問題の1つとして挙げられるのは、コンデンサ内で発生する電気容量の減少です(下のグラフを参照)。通常、デバイスの動作に極めて重要な大型の電解用コンデンサがいくつかあります。これには、整流器後の電圧を高く維持するものや、電源の出力で使用されるものなどがあります。これらのコンデンサ容量の減少は、リップルの増加や起動障害までも引き起こす可能性があります。
突入電流を制限するために使用されるサーミスタのようなNTCデバイスは、値が増加します。温度が急激に低下した場合、このようなデバイスは効率が低下したり、動作に問題が生じるレベルにまで値が増加することがあります。
検出がより分かりやすい性能上の問題に加えて、電磁発光(EMI)の増加のような目に見えない問題が発生する可能性もあり、しばしば気づかずに見過ごされてしまうことも多くあります。EMIフィルターの特性は、フィルターコンポーネントの温度の影響を受けます。規定範囲外で動作がおこなわれた場合、このフィルターは発光を効果的に減衰せず、システムはEMI規定に適合しなくなります。
多くのコンポーネントの信頼性と平均寿命は、そのコンポーネントの動作温度と直接関連しています。電源の出力コンデンサのようなコンポーネントでは、規定された温度を超過した動作が行われると、期待される寿命が劇的に低下する可能性があります。温度上昇によりリップル電流が増加すると、等価直列抵抗(ESR)における電力損失により、出力コンデンサの温度が増加することが予想されます。Illinois Capacitor Inc.社は、周囲温度が10℃温度上昇すると、アルミ電解コンデンサの寿命が半分にまで縮まることを想定すべきだと述べています。
電源内の動作温度の増加による、出力コンデンサ、ならびにその他コンポーネントの平均寿命の低下は、電源全体の平均寿命を必ずや低下させることになります。一方、低温での動作は、はんだ接合部、セラミックコンデンサ、SMDはんだ、プラスチックのクラックのような、物理的損耗によって信頼性の低下を引き起こします。
温度制限外で動作した場合、電源は、設計によってはシャットダウンによる保護機能が動作したり、コンポーネント損傷のリスクに曝されます。
一部の電源は、過熱に対する保護機能を備えています。この場合、電源は温度が使用範囲内に戻るまで電源を落とすことがあり、通常ヒステリシス機能も備えています。システム全体で過熱に対する保護機能を備えていなくとも、一部のコンポーネントに独自の内部保護機能を備えている場合があります。この場合、回路の一部だけがシャットダウンし、その他の部分は動作を続ける可能性もありますが、このことが複雑な問題や損傷を引き起こすこともあります。
電源が保護機能を内蔵していない場合、温度範囲外での動作をおこなった場合は伝動装置内のPTCデバイスに損傷のリスクがあります。これらのデバイスは通常ある程度の余力を持たせて設計されていますが、これは入力電圧などの動作条件に依存しており、動作範囲の異なる場合はこの余力も狭まることもあります。
動作温度は、電源内のすべてのコンポーネントに影響します。電源の温度制限外での動作は、コンポーネントの予想外の動作を引き起こす原因となり、それによって平均寿命の短縮につながったり完全な損傷にまで及んでしまうこともあります。規定温度範囲外で電源を動作させる前に、この電源にどのような影響が起こり得るのかを特定するためにも、製造元に相談することをお勧めします。
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